さて、今回は今までの記事とはガラっと違う内容を書いていきます。
漫画『進撃の巨人』(諌山創・講談社)に関する考察です。
なぜ、いきなり『進撃の巨人』の話やねん、と思われるでしょうね。
『進撃の巨人』は、主に私が某国立大学法人で働いていた時期に読んだ漫画です。そして、その『進撃の巨人』の登場人物の中でも、私が最も当時の自分自身を重ねて見ていたのがアニ・レオンハートでした。
組織や仕組み、人間に対する彼女の洞察がとても私の考えていることと近かったのです。
設定、兵団に関する説明
『進撃の巨人』を読んだことがない人がどれだけこの記事を読んでくれるのかは謎ですが(笑)、この記事の前提となる世界設定や「兵団」について、最初に簡単に説明しておきます。
『進撃の巨人』の世界とは
・突如として現れた「巨人」により、人類は滅亡の危機に瀕している。
・巨人は人類を捕食する。
・人類は巨人が越えることのできない3重の壁を築き、その壁内でのみ何とか生きながらえることができている。
「兵団」とは
・正式配属前の訓練兵は、巨人との戦闘技術を身につけるため「訓練兵団」に配属される。
・「訓練兵団」を修了した者は、本人の希望により「憲兵団」「調査兵団」「駐屯兵団」のいずれかに配属される。
・ただし、「憲兵団」を志願できるのは「訓練兵団」における成績上位10位以内の者のみ。
・「憲兵団」に配属されれば、巨人の脅威のない内地での安全で快適な生活が保障される。
こんなところでしょうか。
では、本題に移ります。
「茶番」に苛立つ少女
104期訓練生であるアニ・レオンハートは、対人格闘術の訓練中に主人公であるエレンに対して次のように言い放ちます。
こんなことやったって意味なんか無いよ。「対人格闘術」なんか点数にならない。私を含め熱心な内地志願者はああやって流すもんさ…。(中略)とにかく…点数の高い立体機動術じゃなきゃやる意味が無い。目指しているのは立派な兵士ではなく内地の特権を得ることだから。
『進撃の巨人』
第4巻(諌山創・講談社)より
世の「大人」からすると、「ハッキリ言いますねぇw」というところではないでしょうか。
さらに、静かな怒りを込めているかのような表情で…
『進撃の巨人』第4巻(諌山創・講談社)より
エレンを派手に投げ飛ばし、一言。
『進撃の巨人』第4巻(諌山創・講談社)より
それが人の本質だからでは?
『進撃の巨人』第4巻(諌山創・講談社)より
続けて、このように言っています。
私はもうこれ以上この下らない世界で兵士ごっこに興じれるほどバカになれない。
『進撃の巨人』第4巻(諌山創・講談社)より
このセリフに関しては、これまでの文脈からして、
私はもうこれ以上この下らない世界(茶番的な仕組みが支配する世界)で、兵士ごっこに興じれるほど(仕組みの理不尽さなど顧みることなく、自分の理想を追い求めていられるほど)バカになれない。
という意味だと考えられます。
私はこれを読んだときに、憤りとシラけが混じりあったような、ある意味で人を突き動かす強烈な負の衝動のようなものを感じました。そして、それは当時の職場で自分が感じていた違和感にとても似ていると思ったのです。
作中では、アニの言う「茶番」とは何か、茶番を生み出す「仕組み」とは何か、「人間の本質」とは何かについて直接的に語られているシーンはありません。何より、アニの話は論理的には必要と思われる部分が省略されていたり、言葉同士の繋がりが分かりづらかったり、明確には理解しづらくなっています。思索的ではあるけど口下手、といったところでしょうか。
順番に見ていきます。
アニの言う「茶番」とは何か・その1
17話において、アニが言った「茶番」とは何を指すのか。
『進撃の巨人』第4巻(諌山創・講談社)より
その直前のセリフである「巨人に対抗する力を高めた者ほど巨人から離れられる」という矛盾を指して、「茶番」と言っているように読みたくなります。
しかし、
「茶番」=「見え透いた下手な芝居」
というのが本来の意味です。
となると、「巨人に対抗する力を高めた者ほど巨人から離れられる」という「矛盾」=「茶番」であるという読み方には少し違和感があります。「茶番」という言い方をするからには、どこかで「見え透いた何か」について言及されているはずです。
先ほども書いたとおり、アニの話は分かりにくいです。ひとつには、論理的には必要と思われる言葉が省略されているため。もうひとつは、接続詞が用いられていないためです。そのため、それぞれの言葉がどのような位置づけのもとに繋げられているのかが非常に分かりづらい(これらは漫画という形式である以上、仕方ないことではあるのですが)。
省略部分や言葉同士の繋がりを補いつつ、アニの思考を追ってみると、次のようになります。
まず、訓練兵団の「理想」と「本音」を比べてみます。
訓練兵団の「理想」
・巨人と戦い、自由を取り戻す(目的)
・そのために訓練して、巨人と戦う力を高める(手段)
・巨人に勝利し、その脅威から解放される(目的の達成)
訓練兵団の「本音」
・ラクな生活をしたい(目的)
・そのために訓練して、優れた成績を収める(手段)
・巨人から遠ざかり、その脅威から解放される(目的の達成)
しかし、兵団の「本音」を世間に対して堂々と口にするわけにはいきません。壁の民の税金で成り立っている組織ですからね。
そこで、「理想」の兵団から、「目的」と「手段」だけ借りてきて、「建前」として利用させてもらいます。そうすることで、「真の目的」を巧妙に隠すことできる…とまでは言えなくとも、世間からの非難をかわすための盾とすることができるわけです。
「建前」を得た訓練兵団は、このようになります。
訓練兵団の「現実」
・巨人と戦い、自由を取り戻す(「建前」としての目的)
・そのために訓練して、巨人と戦う力を高める(「建前」としての手段)
・巨人から遠ざかり、その脅威から解放される(真の目的の達成)
しかし、所詮は借り物の「目的」と「手段」ですから、なんだかおかしなことになってしまっています。
「おかしなこと」とは、アニの言う
「巨人に対抗する力を高めた者ほど巨人から離れられる」
という矛盾です。
そして、訓練兵団が「建前」として用いている「目的」と「手段」がウソッパチであることは壁内においては周知の事実であり、見え透いた芝居=「茶番」でしかない、と言っているわけです。
まとめると、
【アニの言う茶番とは】
ラクな生活を手に入れるために訓練に励んでいるというのが本音だが、そのような本音を堂々と口にするわけにもいかないから、みんなで「巨人と戦い、自由を取り戻すため」というウソの理想を掲げて、見え透いた芝居を演じている訓練兵団の仕組み。
ということになります。
さらに続けて、「どうしてこんな茶番になると思う?」と問いかけ、自ら「それが人の本質だから」と答えます。「人の本質が○○であるがゆえに、こんな茶番になる」と言っているわけですが、この「○○」の部分、つまり「人の本質」とは何なのかには触れることなく、このシーンは終了します。
アニの言う「茶番」とは何か・その2
アニは31話においても、相手をエレンからマルロに替えて、17話と同じことを言っています。そういう意味では、17話と31話の各シーンは「並列」の関係にあります。
憲兵団の「理想」
・王に仕え、壁内の秩序を守る(目的)
・そのために優れた成績を収め、入団資格を得る(手段)
・憲兵団に入団し、壁内の秩序を守る(目的の達成)
憲兵団の「本音」
・特権を思うままに行使したい(目的)
・そのために優れた成績を収め、特権を得る(手段)
・特権を濫用できる(目的の達成)
憲兵団の「現実」
・王に使え、壁内の秩序を守る(「建前」としての目的)
・そのために優れた成績を収め、入団資格を得る(「建前」としての手段)
・特権を濫用できる(真の目的の達成)
当然ながら、ここでも訓練兵団と同じく矛盾が発生します。
また、憲兵団の新兵であるマルロが「憲兵が税をちょろまかしたり、不当に土地を奪ったりと悪行を繰り返しているのは、誰もが知ってる事実」と話しています。つまり、訓練兵団と同じく、憲兵団の掲げる建前がウソッパチであることは周知の事実であり、見え透いた芝居、「茶番」であるということです。
続く場面において、アニは「この組織の仕組みが人間の本質がよく表れる構造になってる」とは言っていますが、やはり「人間の本質」が何なのかは直接語られてはいません。
しかし、訓練兵団と憲兵団、この2つの具体例に共通する本質…それが答えになっています。
「人間の本質」とは何か
すなわち、アニの言う「人間の本質」とは、
汚い本音を隠すために理想を用いる、という人間の性質
であると考えられます。
ただ、あくまでこれはアニという一人の登場人物が、兵団を通して見た「人間の本質」です。彼女は実際そのような人間を「普通」ではあるが「クズ」には違いない、と認めていますから、主に負の側面から人間の本質を捉えていたものと考えられます。
しかし、作品全体を通じて考えると、必ずしも負の面だけはなく、もう少し広い意味で「人間の本質」が描かれているようにも思います。
それは、
自らの行為に対する強力な意味付けがなければ、人間は生きていけない
ということです。
これに関しては、69話におけるケニー・アッカーマンの言葉から窺い知ることができます。
「酒、女、神様、一族、王様、夢、子供、力…」
「みんな何かに酔っぱらってねぇとやってられなかったんだな…」
『進撃の巨人』第17巻(諌山創・講談社)より
人間の本質がよく表れる構造とは
少し話が逸れました。アニの話に戻します。
31話において、アニは「訓練兵は大半がクズだった」「それも普通の人間なんじゃないの?」「この組織の仕組みが人間の本質がよく表れる構造になってるだけで」と述べています。
では、「人間の本質がよく表れる構造になっている」とは、どういうことなのでしょうか。
訓練兵団と憲兵団、2つの具体例からアニの言葉の真意を考えると、
構成員の利己的な欲望を満たせるだけの力と、世間を黙らせることができるだけの強力な大義名分の両方を持つ組織があるとしたら、それは人間の本質が表れやすい構造をしていると言える
と解釈できます。
もう少し具体的に言うなら、
理想や正義は単なる建前であるが、その建前を保持したまま、自分たちだけが美味い汁を吸い続けられるように、「辻褄合わせ」が横行するような組織。また、そのような行為が高く評価されるような組織。
であると言えるでしょう。
自分の職場と照らし合わせて、思うところがある人も少なくないのではないでしょうか。
真っ先に思いつくのは「公務員」でしょうか。いや、真面目に仕事をしている公務員の方が大半だとは思います。すみません(笑)。しかし、お役所的な組織が人間の本質が表れやすい構造をしていることは確かではないでしょうか。
17話において、アニは訓練兵団に所属する人間を3通りに分けて認識しています。
①茶番の仕組みを理解したうえで狡猾に立ち回る人間(例:ジャン)
②茶番であることに気づかず、何にでも一生懸命取り組んでしまう人間(例:エレン、マルロ)
③ただのバカ(例:コニー、サシャ)
実際に、アニの言う「茶番的仕組みが支配する組織」において、正気を保っていられるのはこの3種類の人間だけだと思います。
これは、ちょうど私自身が以前の勤め先である某国立大学法人の職員たちを観察していて思ったこととほぼ同じでした。そこでも、やはり「建前と本音を使い分けなさい」と、管理職の方からよく言われたものです。そのような環境で正気を保っていられるのは…ということですね。
アニは「割り切っている」のか
17話と31話において、アニは自分自身を上述の「①茶番の仕組みを理解したうえで狡猾に立ち回る人間」として位置付けているような話し方をしています。
確かにアニは、格闘術を「無意味な技」と言い、そのような技の習得を自分自身に強いてきた父は「現実離れした理想に酔いしれていた」人物だったと言っています。
『進撃の巨人』第4巻(諌山創・講談社)より
これが本心だとすれば、アニは「茶番の仕組みを理解したうえで狡猾に立ち回る人間」として、兵団内でよろしく立ち回っているはずです。なのに、実際にはなぜあんなにやさぐれているのでしょうか(笑)。
それは、アニは自身が言っている「3種類の人間」のいずれにもあてはまらない人間だから、だと私は思います。
つまり、アニとは、
茶番の仕組みを理解し、どうすればその仕組みの中で自分が得をするかもよく理解してはいるが、自らの理想を捨て切れてはいない人間
であるということです。
33話でのエレンの「アニ評」がよくそれを言い表しています。
そんなお前が生き生きしてる時がある。その格闘術を披露する時だ…。父親に強いられた下らない遊び事だとか言ってたけど、オレにはお前がそう思っているようには見えなかった…。お前は…嘘をつくのがヘタな奴だと…オレはそう思っていた…。
実際のところ、組織においては、程度の差こそあれ、アニのように「茶番の仕組みを理解してはいるが、自らの理想を捨て切れてもいない人間」がそれなりの数はいると思います。
茶番がうまく機能するように行動してはいるが、心の中にはモヤモヤしたものがあり、(意識的にか無意識的にかは分かりませんが)それを抑え込みながら生きている人間、といったところでしょうか。実際には、これこそが「普通の人間」なのではないかとも思います。だからこそ、「何かに酔っ払ってないとやってられない」のかもしれません。
まだ書きたいことはありますが(笑)、このへんにしておきます。
私が現在構想している「半農半Xシェアハウス」では、少なくとも建前と本音を使い分けることなく、構成員が堂々と自分の生き方を発信できるような環境にしたいと考えています。
と、なかば強引に「半農半Xシェアハウス」に繋げて終了(笑)。
ここまで読んでくれたあなたに、いつかお会いできるのを楽しみにしております。
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